「食を通じて、食べる楽しさや生きるよろこびを感じさせたいです。 」
大坂さんは管理栄養士ですが、栄養士との違いは何ですか?
大坂 栄養士は短大や大学など国が指定する養成施設を卒業すればなれますが、管理栄養士になるには、実務経験を経てから、または管理栄養士養成施設を卒業して国家試験を受けなければなれません。栄養士との大きな違いは、病院では病気の人の療養のために必要な栄養指導を行うこと。介護施設においては利用者の身体状況・栄養状態に応じた栄養管理を行うなどができる、ということですね。私は短大を卒業してからすぐ栄養士として病院に勤めたのですが、やはり管理栄養士の仕事をしたいなと思ったので、受験資格に必要な2年の実務経験の後、管理栄養士の免許を取りました。
普段のお仕事はどんなことをされているのですか?
大坂 特養(特別養護老人ホーム)と、デイサービスの献立作りが主な仕事です。同じメニューでも、利用者の方の必要な栄養量や嚥下(えんげ)の状態をもとに作るので、実は一人ひとり違います。特養を専任していた時は、ケアマネージャーや看護師などのスタッフと一緒にカンファレンス(会議)をして、Aさんの食事形態について、Bさんのご飯はこの量で、というように全員の食事内容を決めていました。その他には、季節のイベントの企画を立てたり、調理師と一緒に介護食の研究や試作をしたりもしています。また、利用者のみなさまの食事の様子を記録し、食事の反応などを見ながら今後の献立づくりの参考にしています。送迎なんかもやったりしていますよ。
“介護食”のお話が出ましたが、うねめの里では利用者の食事に合わせた食事に力を入れていると聞きました。
大坂 少し前までは、食材を細かくした「きざみ食」が一般的でしたが、今はもっと食べやすくて、しかも見た目も味も普通の食事と変わらない“やわらか食”“ゼリー食”を取り入れています。“やわらか食”は歯ぐきでつぶせるくらい食材を柔らかくしたもの、“ゼリー食”はミキサーで一度液状にしたものをゼリーのように固めて、舌でつぶせるようにしたものです。いろんな本を参考に、調理師と一緒に試作をしたり工夫したりして、毎日の献立を作っています。
すごく手間をかけているのですね。それだけ手間をかける意味がやはりあるのでしょうね。
大坂 年をとると、普通の食事を普通に食べる、ということが難しくなります。今まで食べていたものが食べにくくなることをどう思いますか?ここではみんなと同じメニューを楽しめるよう、そんな介護食にしているんです。周りと同じことが安心感を与えますし、同じ味を共有することでコミュニケーションも生まれます。食事って、生活の中でとても大きな役割を果たしているんですよ。健康管理はもちろんですが、食を通じて生きる楽しみを持ってもらうことが、介護施設で働く管理栄養士の役割だと思います。
仕事をしている中で嬉しかったことは何ですか?
大坂 今はデイサービスを担当しているのですが、お昼ごはんのときに「肉が柔らかくて、久しぶりに美味しく食べられたよ」と利用者の方に言ってもらえたとき、すごく嬉しかったですね。みなさまが残さず、美味しく召し上がってくれると本当にやりがいを感じます。また、毎月おやつ作りがあるのですが、普段は料理をしないおじいちゃんが率先して生地をこねたり、ベテラン主婦のおばあちゃんから逆に料理を教わったり、いろんな発見がありますし、何よりみなさまがいきいきしている姿を見られるのが嬉しいですね。
管理栄養士になるためにはどんなことが必要ですか?
大坂 仕事を始めてからわかったのは、意外と理系な職業であることですね。何十人、何百人分の分量を計算したり塩分を計るなど、常に計算が必要になります。私はもともと文系だったので、はじめは計算ばかりの仕事に慣れるまで大変でしたね。それから、料理ができないと献立や企画の提案もできませんし、料理や食に対する興味や知識はたくさん持っておくといいと思いますよ。
大坂さんは、これからどんなことに取り組んでいきたいですか?
大坂 これからは介護食についてもっと知ってもらえるよう、料理教室や講座を開いたりして、情報を外部に発信していきたいですね。今は1ヶ月分の献立表に、食事や栄養について書いた栄養新聞を載せて利用者の方やご家族にお渡ししていますが、在宅で介護されている方や施設を利用していない方にも、まずは介護食について知る機会をどんどん作っていけたらいいなと思います。
事務室では毎日の献立や、その日の食事の記録を作ったりしています。
- 特別養護老人ホームうねめの里・うねめの里デイサービスえみふる 管理栄養士 大坂テルミ(おおさか てるみ)さん
- 出身地
- 福島県郡山市
- 出身校
- 尚絅女学院短期大学(現:尚絅学院大学)家政科食物栄養専攻
- 休みの日の過ごし方
- 家でのんびりしたり、お出かけしたりとメリハリのあるお休みを送っている大坂さん。なんと阿波踊りが得意で、郡山駅前のイベントなどに毎年参加しているそうです。
※この記事はaruku2014年4月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。