「病院スタッフが働きやすい環境を作る、縁の下の力持ちの存在」
熊田さんはどんなお子さんだったのですか?
熊田 いつも前に出ることが好きな子どもでした。学芸会では主役に立候補したりルーム長をしたり。要は目立ちたがり屋だったんでしょうね。人 に教えることも好きでしたし。小さい頃は学校の先生になることが夢でした。
そんな熊田さんが医療事務の仕事を選んだきっかけは何ですか?
熊田 高校卒業後は就職を選び、最初は県立医科大学や福島県庁の臨時職員として働いていました。医療事務の仕事を目指したきっかけは、医大で働いていたとき、一緒に働く医療事務のみなさんが患者さんや先生、看護師さんたちとふれ合いながらキビキビと仕事をこなす姿がすごく素敵に映り、自分も目指したいなと思うようになったんです。
転職する際に医療事務の資格などの勉強はしたのですか?
熊田 ええ、県庁で働いていたとき仕事の傍ら毎週お休みの日に医療事務の講座に通い、資格試験の勉強をしていました。医療事務の資格は国家資格ではないので、必ず持っていなきゃいけないものではありませんが、医療事務の基本となる診療費の計算の仕方などをそこで学びました。半年ほど講座に通ったのち、試験を受けて資格を取ることができました。その後は総合病院などで経験を積み、院長先生とのご縁もあって今の病院の職員になったんです。
医療事務は普段どんなお仕事されているんですか?
熊田 主に患者さんの来院時の受付や会計、レセプト(明細書)点検、帳票出力や健診の予約など病院事務に関わることを行います。総合病院ですと職員が多いので仕事が細分化されていると所も多いですが、今勤めている病院は私を含め事務は2人しかいませんので、やることがたくさんあります。特に正確さを求められるのがレセプト点検で、診察や検査、レントゲンなど治療にかかる費用は全て点数で決められていて、それをもとに毎月の医療費を計算し、支払い機関に請求します。医療費の7~9割は私たちが納めている国民保険料、社会保険料が負担しているので、支払い機関では間違いや不正がないように毎月厳しいチェックをします。この患者さんに適切な診察が行われているか、必要ない診察まで行われていないかを調べ、少しでもおかしい箇所があればその機関から「査定」が入り、減点されてしまいます。査定が多いとその病院が信用されなくなってしまいますのでの病院でもおかしい所がないよう先生も一緒になって細かくチェックをします。今はコンピューターでチェックもできますが、最終的には人の目で見なくてはなりません。お金や信用に関わることですから、知らないではすまされない仕事なんですよ。なので、査定がゼロだった月はやった!って思いますね。
どんなことをいつも心がけながら仕事していますか?
熊田 私たちの病院では患者さんが来院したらどんなに忙しくてもまず立って対応します。診察券や保険証もちゃんと手を添えて受け取ります。患 者さんがまず顔を合わせるのは私たち受付にいる事務員ですから、受付の人間が目も合わせずに対応したら、相手は気持ちよくないですよね。それに患者さんは病気やケガなどで来院しますから、何かしら不安を抱えてきます。待ちの時間も「今こんな準備をしています」「次にお呼びします」など声をかけたりして、患者さんに気持ちよく待っていてもらうことを心がけています。それから患者さんの健康状態や患部の状態などを聞き、先生や看護師に伝えて、先生が万全の状態で診察できるよう準備もします。周りが働きやすい環境を作ることも事務の仕事なんですよ。今の病院に勤めてまだ3年目ですが、患者さんに名前を読んでもらった時、はじめて自分を認めてもらえたような気持ちになって嬉しかったですね。
では大変なことはどんなときですか?
熊田 仕事をしていると、誰でも納得いかないことが出てくると思います。さきほど話したレセプトなども、査定が入るかもしれないから診断をこうす ればいいのに、ああすればいいのに、と思うことが時々あります。でも医療の現場で、事務員が立場を欲張ってはいけませんよね。直接患者さんを診て治療に当たるのは医師ですから。それぞれの役回りがあるからこそ、仕事って成り立つと思うんです。私たちの先生が良く口にする言葉で、「矛盾の中を泳ぎきることが大切」というのがあります。仕事でも生活でも、納得いかないことがあって、その度に立ち止まっていたら前に進みません。つじつまが合わないことがあっても、心に余裕を持ってうまく立ち回ることが必要なんですよね。
医療事務は女性が働きやすい仕事だと聞きますが、熊田さん自身はずっとお仕事をされてきてどう思いますか?
熊田 医療事務の仕事に就いて10年ほど経ちますが、仕事の基本をしっかり持っていれば、仕事を離れても周りが変化しても柔軟に対応できると思うようになりましたね。私自身も結婚や出産で仕事を離れたことがありましたが、今こうやって仕事をしているのもこれまでの経験があったからだと思います。もちろん勤めた環境にすごく恵まれていたということもありますよ。医療事務は幅広い知識と応用力が必要な職種ですし、たくさんの仕事を覚えなくてはならないので大変だと感じる方もいます。でも向上心はある方にはとてもやりがいがある仕事だと思いますね。
- 太田メディカルクリニック事務職員 熊田 奈津美(くまだ なつみ)さん
- 出身地
- 福島県福島市
- 出身校
- 福島県立西高等学校
- 休みの日の過ごし方
- 掃除、バレーボール、日帰り旅行。普段は仕事と家事の両方をこなす熊田さん。時々日帰りで東京に行き、食事やショッピングをして1人の時間を思いっきり楽しむことでリフレッシュしているそう。
- 座右の銘
- 「天の蔵に貯金をする」見返りを求めず、天に貯金するつもりでたくさん良いことをすればそのうち上手くいくということ。
※この記事はaruku2013年9月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。