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公開日:
2023.5.31
更新日:
2023.8.29

研究者|プロフェッショナル夢名鑑

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原発事故の野生動物への影響を調査する研究者に話を伺いました。

「日々の調査をコツコツ続けていくことが何よりも大切な仕事です」

村上さんの研究拠点の一つである野生生物共生センターには、野生動物の生態や保護について知ることができるブースもあります。


普段どのようなお仕事をしているのか教えてください。
村上 福島県環境創造センター(三春町)は、原発事故の影響を受けた福島県の環境を回復させることを目的に立ち上げられた組織です。私は原発事故で大量に放出された放射性物質が野生動物に与える影響について研究を行っており、イノシシやツキノワグマ、シカ等を調査対象としています。動物の体内に蓄積された放射性物質の濃度を測定し、生息場所や食べ物などからその影響を調べているのですが、特にイノシシは蓄積量が多いため、その原因についても調査しています。

大学でも動物関係の勉強をされていたのでしょうか?
村上 大学院までは化学を専攻していました。私は福島県の化学職―いわゆる専門職の公務員として働いてます。化学職は、環境公害や廃棄物、原子力関係の仕事を行う職種で、私はこれまで、大気汚染や水質を調査する仕事を担当していました。その後、当センターの研究部に異動になり、現在2年目になります。

福島県の職員になろうと思ったきっかけを教えてください。
村上 最初に就職した会社では工場の品質管理の仕事をしていましたが、別の分野にチャレンジしようと転職を考えていたタイミングで県職員の方と知り合いました。「野良犬を追いかけて捕まえた」という話を聞き、「公務員ってパソコンに向かうだけじゃなく、そんなことまでするんだ」と意外に感じたことから興味がわき、調べてみると化学職の募集がありました。学生時代の経験が活かせると思い、試験を受けました。

研究はどのように行っているのでしょうか?
村上 イノシシは実際の生体を調べます。イノシシは繁殖力が強く、放っておくとどんどん数が増え、生態系や農作物に影響が及ぶ可能性があるため、狩猟を行う「猟友会」が駆除しています。環境創造センターの附属施設で研究拠点の一つである野生生物共生センター(大玉村)の遠方で捕れたイノシシであれば、脚の筋肉の部分を猟友会から提供してもらい、放射性物質の濃度の測定や調査を行います。センター近くで捕れたイノシシは一頭丸ごと私たち研究員が受け取りに行き、自分たちで解剖します。これまで動物の解剖経験はありませんでしたが、獣医師などから指導を受けて慣れてきました。

イノシシ一頭を解剖するとは、すごいですね。
村上 幼い頃から動物が好きなので、始めは少し抵抗がありました。でも仕事なので、「ごめんね」と思いながら年間20~30頭ほど解剖しています。自分たちで解剖すれば、筋肉だけではなく胃や腸、血液なども調べることができるので、放射性物質の蓄積量だけではなく、どんなものを食べればどのように蓄積するのか、より詳しい研究に役立てることができます。野生動物に触れる時は、ダニなどを通して感染症の危険もあるため、防護には気を付けています。

研究の成果はいかがですか?
村上 ほとんどのイノシシは除染されていない山林に生息しているため、土に溜まった放射性物質の量が多いエリアに生息する個体ほど、筋肉に溜まる放射性物質は多いことがわかってきています。胃の中の放射線濃度が高いと、筋肉の放射性物質の濃度も高くなるという相関関係も見えてきているので、食べ物の影響は大きいと考えられます。
研究成果を多くの人に知っていただくために論文を出したり、学会で発表したりすることも求められます。イノシシは原発事故後から県内全域で出荷制限がかけられており、なぜ放射性物質の濃度が高いのかを解明することが、将来的な出荷制限の解除につながるといいなと思っています。研究は長い期間じっくり続けなければ成果が上げられませんので、日々の調査をコツコツ続けていくことが何よりも大切です。

実際に県職員になってみていかがですか?
村上 調査のために森に入ったり、動物の解剖をしたりするのは、以前の私がまったく持っていなかった公務員のイメージですね(笑)。地方公務員の一般職は窓口応対から企画考案まで幅広い業務があることから、「部署異動は転職と同じぐらい仕事内容が変わる」といわれています。私たち化学職も同じで、部署が移れば新しい分野で仕事をすることになります。論文を読んだり、専門分野の勉強を続けなければならないのは大変ですが、さまざまな経験ができるため、飽きることはありません。

研究者に向いているのはどんな人だと思いますか?
村上 どんなことにでも興味を持てる人、または、何か一つ、すごく好きなことを極めたいと思っている人だと思います。

子どもたちにメッセージをお願いします。
村上 自分が何を楽しいと思うか、何に向いているのかは、やってみないとわかりません。興味があることはやってみて、楽しいと思えば続ければいいし、つまらないと思えば違うことを探せばいい。機会があればどんどん挑戦して、自分の好きを見つけてほしいと思います。

イノシシの筋肉を解剖する村上さん。


イノシシを解剖するナイフ。


お名前
村上(むらかみ)さん
趣味
スカッシュ
休日の過ごし方
愛犬(ゴールデン・レトリバー)と遊ぶ

※この記事はaruku2023年6月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。