次の世代に“伝統”というバトンを渡す一人になりたい。
齋藤さんが酒造りに興味をもったきっかけを教えてください。
齋藤 小さいころ、私の母が風邪をひいたときお祖母ちゃんがよく卵酒を作っていたんです。そのお酒の香りがなんとも言えず大好きで。飲めないのにその頃からお酒にはとても興味がありましたね。酒造りの仕事がしたいと思ったのは小学5、6年生の時です。図書室で読んだ本に“杜氏(酒造り職人のリーダー)”の写真を見て、その姿がとてもかっこよくて。その時から酒造り職人になることが夢になりました。周りからは珍しいと言われましたが、私の実家は絹織物を作っていたので「職人」は身近な存在だったんです。
齋藤さんが進学した東京農大では、どんな勉強や研究をしていたのですか?
齋藤 短大では醸造課に在籍し、醗酵について勉強しながら、花酵母のお酒をつくる研究をしていました(※)。お酒造りに必要な酵母は主に酒のもろみから分離させたものですが、自然界に咲く花や果実からも酵母は取れるんです。私は地元の川俣町が桑栽培が盛んだったので、桑の葉と実、そしてザクロの酵母を使って学校でお酒を造りました。商品にできる味ではありませんでしたが、それでも自分で造ったお酒が完成した瞬間、そして味わった瞬間は達成感がありましたね。
(※)東京農大には醸造学科酒類学研究室の中田久保教授が設立した“花酵母研究会”があります。
現在、仁井田本家に勤務されて4年目だそうですが、普段はどんな仕事をしているのですか?また、大変だなと思うことはありますか?
齋藤 まだ手伝いのような立場ですが、仕込みや醸造の他、米作り、びん詰、発送など酒造りに関わるすべての仕事に関わっています。仕込みが始まると、お酒の分析が私の主な仕事になります。醸造中は日々状態が変わるお酒をタンクから取り出し、アルコール度数や酸度、味が甘いか辛いかを分析します。お酒の味を左右することなので、地味だけど大切な仕事です。また掃除や道具の手入れも気が抜けません。杜氏や他の先輩職人が作業しやすいよう段取りを組むことも大切です。なので、準備や片付けが間に合っていないと杜氏や先輩から厳しく叱られることもあります。自分はまだまだだなと思う時もありますが、そんなときは思い出のお酒で元気づけています。学生の時に研修でお世話になった酒造のお酒なんですが、私にとって原点に帰れる味であり、明日もがんばろうと思える原動力なんです。
職人は日々勉強ですね。では、どんなことにやりがいを感じますか?
齋藤 やはりみんなで造ったお酒が完成した時ですね。仁井田本家では米作りから始まるので、春先から新酒ができる12月まで、長い時間をかけて造りますから。毎年、他の酒造メーカーで働く友人とお互いに新酒を交換するのですが、いつも「あなたの蔵のお酒はおいしいね」と言われます。出荷するときも荷札に地元の住所が書かれていると、みんなに飲んでもらえる!と嬉しくなりますね。本当に自慢のお酒です。日本酒の原料はお米と水だけなのに、味や香りも造る人によって全然違う。知れば知るほど、日本酒は奥深いなあって思います。最近は原料の米作りにも興味を持つようになりました。お米だって産地によって味が違いますからね。将来は、大学で研究していた花酵母のお酒も造ってみたいです。
伝統を受け継いでいくことは大変だと思いますが、齋藤さんのように若い世代がいきいきと働く姿を見ると頼もしく感じます。
齋藤 伝統は千年以上続く『長いリレー』だと思います。お酒だけじゃなく、食品や建築、芸術など“日本の伝統文化”と呼ばれるものは昔から誰かが大切に繋いできたもの。先代から渡されたバトンを、次の世代につなぐ。その一人になれるなんてとてもカッコイイことだと思います。清酒業界は厳しい状況ではありますが、日本酒が何十年、何百年後もあるかどうかは、いかに私たちが受け継ぎ、次の世代に繋げるかだと思います。そのためには、当たり前ですがおいしいお酒を造ること。みんなに好きになってもらえる味を、ずっと造り続けていきたいですね。
- 金寳酒造 仁井田本家 齋藤 耀貴(さいとう ようき)さん
- 出身地
- 福島県川俣町
- 出身校
- 東京農業大学 短期大学部 醸造学科
- お休みの日の過ごし方
- 11月~3月の間は酒造りで忙しくなるため、夏に旅行などでリフレッシュしているそう。
※この記事はaruku2014年11月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。