イベントやコンサート会場で音響を管理するPAエンジニアにお話を伺いました。
二度と同じ音響の現場はない、奥の深い仕事です
PAエンジニア(以下、PA)とはどんなお仕事ですか?
塚本 イベント会場で流す音楽や演奏、人の声を聞き取りやすい形に変換し、スピーカーで流す舞台音響の仕事です。マイクの音はまず、「ミキサー」という機械に集められます。私たちPAは、マイクで集められた音声を、その人の声の大きさや声質、会場の音の響きを考慮しながらミキサーで調節し、聞き取りやすい形にしてからスピーカーを通して会場に音を伝えています。単純な話だと、声が小さい人が話すときは音量を上げて、声が大きめの人が話すときは音量を抑える。簡単なようですが、こうした操作はハウリングが起きやすいので、気を付けています。
仕事場は演奏会やステージのあるお祭り、会議や講演会など、屋内・屋外を問わずさまざま。スピーカーが設置されているイベントには、ほとんどの場合にPAがいるといえます。
仕事で苦労することはどんなことですか?
塚本 準備です。会場によって音の響き方は違いますし、何組ものアーティストが演奏するイベントでは、演者ごとにサウンドチェックをします。演奏の場合、ステージ上と客席側のスピーカーの音は別で調整しなければいけませんし、客席もステージとの距離を考慮して音の出方を調整します。けんしん郡山文化センターの大ホールでは、20個以上のスピーカーを調節することもあるんですよ。リハーサルがあるようなコンサートやコンクールは、前日の午後に始まり、帰宅を挟んで当日の午前中ぐらいまで準備の時間があります。しかし、イベントによっては数時間で機材の搬入から設営、サウンドチェックまでしなければならないこともあります。
特に大変だった現場を教えてください。
塚本 少し前に10組以上のバンドが出演するイベントがあったのですが、4時間という短い時間で全バンドを調整しました。時間の制約だけではなく、備え付けのミキサーも初めて触るもの。試行錯誤しながら進めた、今年で一番ハードな現場でした。
仕事のやりがいを教えてください。
塚本 時間と予算と人手の制約はありますが、その中で自分のイメージしたような音が出せた時は、満足感があります。過去にうまくいった現場でも、出演者や天気が変われば二度と同じ現場はありません。追求しようと思えばいくらでも追求できる、奥の深い仕事だと感じます。
音響の仕事を志したきっかけを教えてください。
塚本 ギターが趣味で音楽が好きだったことから、専門学校の音響科に進学しました。音響機器の操作や音響システムについて勉強していくうちに音響関係の仕事に就きたいと思い、地元にある今の会社に入社しました。
実際に仕事を始めてからはどんなことを感じましたか?
塚本 専門学校に入る前は、音響担当者って仕事中に人と話さず黙々と作業する職人のようなイメージがあったんです。でも始めてみると全然違っていました。お客様や演者の要望をもとに音を調整することはもちろん、現場に入る前から必要な機材を準備したり、予算を組んだりと、コミュニケーションを取りながら決めていくことがとても多いです。デスクワークや機材の管理、設営時に事故が起こらないようにするための安全監視など、思いもしないような仕事もありました。
PAの仕事で大切なことはどんなことですか?
塚本 お客様の要望を適切に汲み取って、判断する力です。そのためには、経験を積むことでしか養うことができない勘と、耳の良さが必要です。例えば「声が聞き取りにくい」と言われた時に、音の調整をすべきなのか、スピーカーの場所を調整すべきなのか。現場で同じ曲や自分の声を使ってサウンドチェックをして、音に避けるべき問題があるか見極め、感覚で音を調整しています。
舞台音響の仕事ができる会社は、福島県内でどのぐらいあるのですか?
塚本 県内でもそこまで多くはありません。一方で、PAは常に人手が足りていない状況です。音響の専門学校を経て入社する人も多いですが、入社してから音響のことを学んでいく人もいます。仕事は県内をくまなく回るので、専門学校で学んだ経験は役立っていますが、自動車免許を持っていることも重要です。最近は、女性も増えています。
子どもたちへメッセージをお願いします。
塚本 今は意味がないと思っている勉強でも、子どもの時に習ったことは、大人になって思わぬタイミングで役立つことがあります。だから、勉強はしておいて損はありませんよ。僕の場合は高校時代に勉強した物理で、スピーカーの場所を決めるのにとても役立っています。
プロフィール
【お名前】
塚本さん
【最終学歴】
国際アート&デザイン大学校音響科
【趣味】
クラシックからロックまで幅広いジャンルの音楽を聴くこと
※この記事はaruku2024年11月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。