自分の病気を抱え込まずにいられる場所をつくりたい

鈴木さんは48歳の時に卵巣がんを患いました。治療をして、現在はがん患者のサポーターとして講演会や学会で忙しい日々を送っています。
「がんピアネットふくしま」の活動について教えてください。
鈴木 がん患者やその家族が集まって、話をする「ピアサポートサロン」を県内12ヵ所の病院や公共施設などで開いています。私は2003年に卵巣がんの診断を下されました。がんの当事者だからこその視点を生かし、がん患者が病気のことを一人で抱え込まず、話ができる場にしたいという思いで活動を始めました。仕事終わりに立ち寄れる「夕方サロン」や、話すのが苦手だけど同じ病気を抱える仲間と一緒にいたい人のための「健康マージャン」も開いており、毎月のべ80人近くの方が参加しています。
立ち上げの経緯を教えてください。
鈴木 私はがん患者や家族、遺族が語り合う「ひいらぎの会」の代表世話人としても活動しています。東日本大震災直後の混乱の中、避難してきたたくさんのがん患者から薬のことや治療のことで相談がきました。話を聞いているうちに、はっきりとした悩みがあるというよりも、心の内にある具体的ではないモヤモヤした気持ちを吐き出して、誰かと共有したいと思っている方が多いことに気づいたのです。がんは命にも関わる病気なので、身近な人にも病気のことを明かしたくないという人も多くいます。ひいらぎの会の会員に限らず、どんな立場であっても患者や家族が気軽に集まって話ができる場所をつくりたい。そんな思いでサロンをスタートし、2013年からは福島県のサポートを受けて活動できるようになりました。
参加者のみなさんは、サロンでどのようなお話をされているのですか?
鈴木 参加者の8割は患者さんです。人数は1ヵ所につき、10人いかないぐらい。ピアサポートサロンは、話したいことがあればなんでも話せばいいし、話さなくてもいい。同じ境遇の人同士だからこそわかり合えることはあって、話をすることが誰かを助けることになることもあるし、自分自身を救うこともあります。治療法や薬のことなどを含め、悩みを一歩先に進めることができる場所になっていると感じています。
参加者の声を教えてください。
鈴木 がんの診断を受けたばかりの人は、治療が始まっている人の話をよく理解できないことも多いです。しかし、治療が自分ごとになった時にサロンで聞いた話を思い出し、自分だけが辛いわけではないと知ることができた、という声はよく聞きます。治療が一段落した後に、今度は自分の経験を役立てたいと、サポーターとして運営に参加してくださる方も多くいます。
サポーターの方はどのようなことをしていらっしゃるのですか?
鈴木 サポーターは県内全域で30人ほどおり、進行役として一つのサロンに2人ずつ配置しています。ピアサポートサロンはデリケートな悩みを抱える人の場だからこそ、参加者との向き合い方に悩むこともあります。サポーターの相談に乗る「メンター」という役割の人もおり、サポーターが参加者に向き合えるようにフォローしています。
運営で気を付けていることはどんなことですか。
鈴木 お互いの気持ちを認め合うこと、相手の立場や状況を考えて話すこと、聞いた内容を口外しないことなど、共通のルールを作っています。あとは、少しでも不安なく来てもらえるように、参加者に配るお菓子は、病気の特性や私自身や周りのがん患者から共感を得られた体験をもとにセレクトしています。例えば消化器系の手術をした人は低血糖状態になりやすいので、糖分を補給しやすいあめやチョコを用意します。塩せんべいは、副作用で食欲が出ない時期も一口食べることで食欲が刺激される人が多いんですよ。
学校での講演活動では、どんなことを伝えていますか。
鈴木 がんは特別な病気ではなく、私のように克服して元気で過ごしている人もいるということを伝えたいと思っています。病気の知識が少しでもあると偏見がなくなり、家族ががんになっても必要以上に驚かない。それは、仮に家族が病気を宣告された時に、家族を支えることにもつながります。また、将来の健康を守るための心がけについても伝えています。がん検診は必ず受けるべきということや、がんになるリスクが高まるたばこなどの生活習慣は避けてほしいというメッセージを送っています。
子どもたちにメッセージをお願いします。
鈴木 私は学生時代から外国語の勉強をしていましたが、結婚してからは自分が思うように英語のスキルを生かす機会がなくなってしまいました。しかし、自宅で開いた英語教室をがんと闘いながら続けられたことで、病気のことを近所の子どもたちに身をもって伝えることができたと思います一生懸命やったことは、思い通りにならなくても必ず未来で役に立ちます。人生において無駄なことは何もないのです。

「がんになることは誰が悪いわけでもない。一人で抱え込まないでほしい」と話す鈴木さん。

ピアサポートサロンで参加者に配っているお菓子。
プロフィール
【お名前】
鈴木さん
【最終学歴】
獨協大学外国語学部ドイツ語学科
【趣味】
料理
※この記事はaruku2025年3月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。