一流の料理人が惚れ込む一流の味は、 アマチュアリズムに溢れたプロの手仕事 「蕎麦彩善 隆仙坊」(郡山市)
郡山市清水台、昔ながらのお屋敷風の店構えにも何とも風情を感じる『隆仙坊』。店主の齋藤隆夫さんは、蕎麦作りの名人として知られる片倉康雄氏に師事し、蕎麦打ちの極意を会得。各界の著名人など、数多くの蕎麦喰いを虜にしてきた名店に、郡山を代表する天ぷら専門店『天ぷら佐久間』の店主、佐久間正敏さんも太鼓判を押します。
極上の蕎麦粉を厳選し、自家製粉石臼挽で丁寧に挽いた、挽きたて・打ちたて・茹でたての“三たて”の蕎麦の味もさることながら、齋藤さんの蕎麦について「アマチュアリズムに溢れたプロフェッショナルの業」と、評する佐久間さん。
その真骨頂は蕎麦を様々な形で愉しませてくれる蕎麦懐石に表れているとのこと。
「隆仙坊の蕎麦懐石には常識に捉われない発想が散りばめられているんです。例えば蕎麦を水でいただく水蕎麦をワイングラスに入れて提供したり、蕎麦とフォアグラを合わせたり…。これはある意味アマチュアの視線を忘れていないからこそ思いつくもの。しかもそれを付け焼刃ではなく、フレンチのシェフの元で直々に習い、徹底したプロの仕事で高めているのだから尊敬します。それも全て最後のせいろを一番旨く食べるために計算しつくされているというのだから驚きますよ!」
同じ料理の道を究めた料理人の言葉はさすが説得力大!
聞けば蕎麦に欠かせない天ぷらも『天ぷら佐久間』直伝なのだとか。このエピソードにも佐久間さんが『隆仙坊』に一目を置いていることが伝わってきます。
シンプルだからこそごまかしが利かないため、細かなことにも手を抜けないこだわりと確かな料理人の腕が必要な蕎麦の道。『隆仙坊』でも前述した“三たて”へのこだわりの他に、蕎麦粉は季節によって一番美味しいものを厳選し、さらに毎日の気候や湿度を考慮して水の量を微調整。蕎麦つゆは四国以西の雄の鰹節の背節だけを使い、きりっと澄んだ味わいを実現。しかもかえしを加えて仕上げたものを2週間寝かせる徹底振り!これはもう一度味わっておかないともったいない!
軽くつゆに浸してさっと蕎麦をすする佐久間さん。「旨い蕎麦はすぐに食べるのが鉄則!」
隆仙坊の極意が詰まった盛りそば。つややかに輝く蕎麦が1本1本キリッと締まっていて上品な凛々しさがある。せいろ うすずみ
同じ蕎麦粉と水を使っているのに全く違うふわっとした食感のそばがき。そばが見せる様々な表情とはこのことと納得!揚げそばがき850円
実は学生時代から50年以上も親交があるという2人。取材中も常に和やかなムード。
自然の風景を取り入れようと山の稜線をイメージした稜飩(ろうとう)そば刺しは商標登録を取得した逸品。蕎麦本来の感触をかみ締めながらわさび醤油でいただく。そば刺し650円
齋藤さんと娘さん上原さんご夫婦。齋藤さんの技は娘さんの旦那さんの上原一(かず)与(とも)さんへと引き継がれ、名店の味が守られていく。
※この記事はaruku2015年11月号に掲載したものです。価格や内容は取材時のものです。