いろいろな本や人と向き合って、“人と本をつなぐ”ことが司書の仕事です。
小林さんは小さい頃から本が好きだったのですか?
小林 いえ、小さい頃は全く本を読まない子で、外で遊んでいることが多かったです。でも、母と姉が読書家で、子どもながらに母の読書姿を見ながらいつかはあんなふうに本を読んでみたいと思っていましたね。中学校のときに、友人から薦められた新撰組の本がすごく面白くて歴史にどっぷりつかり、本を読むようになりました。大学でも史学科を専攻して、そこで興味が広がり、地域のお祭りや伝統行事など民俗学の分野について研究していたんです。大学で学芸員の資格を取ったこともあり、将来は学芸員か研究者の道に進もうと思っていました。ただ、だんだんと自分の力の無さを痛感してこのまま研究者になっていいのかなと疑問に思うようになったんです。その気持ちが大きくなり、卒業後は少しでも地元の役に立とうと思い福島に戻ってきました。
司書に興味を持ったのはいつごろだったのですか?
小林 私が司書の資格を取ったのは大学院のときですが、その時は司書になりたいというよりも、自分でも図書館のことを知っていたほうが研究に役立つかなと思ったからなんです。でも、福島で就職しようと決めたときに県で毎年司書の採用を行っていることがわかって受けてみようと思いました。
採用試験の内容はどのようなものなんですか?
小林 私の時は人文・自然・社会科学や文章理解、数的推理などの教養試験と司書の専門知識を問う試験に作文、口述試験、適性検査でした。実は司書の資格自体は、授業を受けて単位を取れば取得できるのですが、そこから就職となるとまず採用自体がほとんどないんです。1年目は落ちてしまったのですが、多少の手ごたえはあったので何回か受けていれば受かると思い、別のところで働きながら翌年再チャレンジして合格しました。福島県の場合だと、採用後はまず県立図書館に配属となり2年間はそこで働きます。その間にいろいろ教えてもらいながら仕事を覚え、その後は県内の県立高校へ行きます。私もいわき市の高校に4年間勤務して、今年の春にまた戻ってきたばかりなんです。
普段はどのようなお仕事をされているのですか?
小林 本の管理はもちろん、レファレンスといってカウンターに来たお客様の「こんな本を探している」といった調査相談の対応も重要な仕事なんです。お客様ひとりひとりの要望にそのつど対応していくので、本の場所を覚えてればいいというわけではないんですよ。「このキーワードで探せば本がみつかるかもしれない」「前にも同じことを聞かれて、あの本に載っていたはず…」など、自分の中にある情報を瞬時につなげて応えられるかが大事なんです。だから、自分の引き出しをいっぱい持つことが求められます。高校勤務のときに司書になりたいという生徒もいましたが、本が好きで本の中で閉じこもっていればいい仕事だと思っている子も何人かいて。でも、そうじゃないんですよね。本当に人相手。人と本をつなぐのが仕事なので、人が好きじゃないとどうしようもない仕事です。
人との関わりも強く求められるんですね。
小林 そうですね。自分だけで完結せずちゃんと相手の要望をキャッチしなければいけないのでコミュニケーション能力が必要不可欠です。もちろん、こちらの勘違いやお伝えしたいことが上手く伝えられず、不快な思いをさせてしまうこともあり、それは本当に反省します。でも、常にどちらかが悪いわけではなくてお互いかみ合わなくて起こったりすることなので、落ち込むのではなく次は上手く伝えられるようにと反省しながら成長していければいいのかなと思っています。
やりがいはなんですか?
小林 日々相談を受けていると、いろんな視点で考えたり、調べたりしている人がいて、しかも、それに応えられる本がこんなにあるんだと発見できる面白さがあります。担当分野はあっても、カウンターではオールジャンルの相談に対応するので、その発見をストックできればと思っています。また、県立図書館は県内外の図書館と連携サービスを通じていろいろな方に本を届けているんです。市町村の図書館だとわりと実用的な本を集めているのですが、うちはもう少し専門的なものを集めているので、お互いの足りない資料を貸し借りしています。それぞれが独立した図書館というわけではなく、助け合っているんですよ。ここにくればとりあえず大丈夫と思ってもらえるように、なるべくいろいろなルートを使って希望の本を届けたいと思っています。それが図書館の役割でもあります。
司書を目指す子どもたちへメッセージをお願いします。
小林 若いうちは自分が打ち込めるものに一生懸命打ち込んで引き出しをいっぱい持つことが大事。あとは「人」を好きになってほしいですね。それから、学校の勉強はちゃんとすること。公共の図書館に勤めるならどこも一般事務の公務員試験と同等の教養試験があることが通例ですから。
子どもたちにオススメの本があれば教えてください。
小林 中学生くらいになると興味を持つものが一人一人はっきりしてくるので、みんなにオススメの本を探すことは難しいんです。だから実際に図書館に来て、私たち司書と会話をしたりして決めると良いと思いますよ。それか、親や友達など自分の周りの人に聞くといいかな。お互いよく知っているからこそどんなことに興味があるのかもわかっていますから。図書館にはいろんな種類の本が昔の本から新しい本までそろっているので、興味関心があったときに本ではどう書いてあるんだろう?他の人はどう感じているんだろう?と思って本で探っていくとより興味が深くなっていくと思いますよ。私たちも誰かひとりにでも興味を持ってもらえたらいいなと思って常に情報は発信しています。だから、もっと気軽に図書館で本に触れてみてくださいね。
- 福島県立図書館 副主任司書 小林 沙織(こばやし さおり)さん
- 出身地
- 福島県郡山市
- 出身校
- 東京女子大学文理学部史学科 → 昭和女子大学大学院
※この記事はaruku2015年12月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。