悩んだり、苦しんだり、挫折したり。どんな経験も良い栄養となって活かせる仕事なんです
成井さんはどんなお子さんだったのですか?
成井 無視されたり仲間はずれにされたり、イジメられっ子の小学生でした。活発で生真面目な性格だったのでいろんなことに口を挟んでしまい、友達から煙たがられたんでしょうね。それでも、中学からは大人しく過ごし、嫌われることもなくなったんです。でも、自分を偽っていると皆から好かれ、本当の自分でいると嫌われるんだ、と思うと悲しくて。その気持ちは高校に入っても消えず、10代の頃は毎日生きているのが辛かったですね。死にたいと何度思ったことか。そんな中、短大に入り、たまたま選んだ授業で臨床心理学に出会ったんです。勉強するほど、自分を救う学問だと思い衝撃を受けましたね。
そこから臨床心理学の勉強を始めたのですか?
成井 はい。在学中は教授のもとに通って勉強しながらカウンセリングも受けました。その中で、私が我慢してきた感情が何かわかったんです。人に好かれようとして本当の自分を抑えてきたから辛くて自分を嫌いになるんだ、と。そこで、ありのままの私を素直に出していこう!と決心しました。そこまでに2年かかりましたが、気づいたら世界が一変していつもの風景が輝いて見えたんですよ。無意識に欝(うつ)という眼鏡越しに世界を見ていたんですね。そんなカウンセリングの効果を身をもって実感したこともあり、臨床心理学をもっと学びたいと思いました。卒業後は結婚して福島に来ましたがその気持ちは消えず、臨床心理士が大学院卒でなければ受験できないことを知って子育てしながら大学院に入って勉強を続けました。その後、臨床心理士として白河の学校でスクールカウンセラーとして働き出したんです。
臨床心理士とは、どのようなことをするのですか?
成井 私たちの行う心理カウンセリングは、このタイプはこれ、この人はこの対処法、なんて単純なことではありません。相談者の悩みの様々な要因を、見えないところまで見ることが求められます。相談者が自分の本音に気づくことで答えが見えるので、そこに気づけるように寄り添って気持ちを引き出すのが臨床心理士です。私は、死にたいと思っていた経験から、同じ様な人の気持ちがよくわかるんです。良い悪いではなく、悩むということをいっぱいしてきたから、人の気持ちに気がつけるようになったんですよね。思わぬことが今の職業で役立って、天職だと思っています。それに、スクールカウンセラーをしていると、かつての自分みたいな子も相談に来ます。その子を助けられるととても嬉しいんですよ。私のようにしないで済んだ、と思うので。それがやりがいですね。特に、自分も経験したからこそイジメは絶対に許しません。
実際にどのようにイジメを解決するのですか?
成井 イジメって、いじめている側に大きな問題があるんですよね。いじめられている子って気が弱かったり、のんびりしていたり。そんなその子の個性が気に入らなくてターゲットにしているんです。だから気に入らないと思う原因を見つけることが大切で、いじめている子を救えれば解決するんです。イジメは誰しも好んでやるものじゃないのに、それが快感になるのはそれだけ心に傷を負っているんですよね。その原因の多くが、親や先生など、周りの大人との関係性です。それを探らないとイジメはなくならなりません。その場で謝っても、心の中の気持ちが消えなければ形を変えてまたやりますから。もちろん、いじめられている子も強くなるようサポートして、両方の成長を促すことが求められるんですよ。
臨床心理士を目指す子どもたちにメッセージをお願いします。
成井 この仕事は、心理学の勉強だけじゃなくて自分自身の経験も大きいです。どんな経験でも活かすことができる仕事なんです。だから、この仕事に就きたいなと思ったらいろんなことをやってみてください。私もたくさん回り道しましたが、なんの損もないんですよ。この仕事と出会えて変われた私が一番救われているんです。それに、悩むことは良いこと。特に思春期は悩んで当たり前です。悩むのは今を一生懸命生きている証で、未来のあなたにとって大事なステップなんです。だから、悩んでいる自分を大事にして、「悩むのが嫌だから死ぬ」なんてことは絶対にしないで下さいね。
成井さんが理事長を勤めるNPO法人ハートフルハート未来を育む会。震災後の子どもたちのケアも行っています。NPO法人ハートフルハート未来を育む会の活動は、「親子遊びと親ミーティング」という支援を県内の保健センターや子育て支援センターにて毎月15ヶ所程で行っています。
昨年9月に「公認心理師」という国家資格を設ける法律が成立しました。
それに伴い、早ければ平成30年から「公認心理師」の国家試験がスタートします。
- 成井(なるい)さん
※この記事はaruku2016年2月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。