医療現場に欠かせない、臨床工学技士という職業を知ってほしい。
(一社)福島県臨床工学技士会の副会長も務める西勝さん。以前は病院やクリニックに所属し、多くの患者さんのために尽力してきました。
臨床工学技士とはどのような仕事なのですか?
西勝 臨床工学技士は法律の中で「厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて、医師の指示の下で、生命維持管理装置(人工心肺装置、人工呼吸器、血液浄化装置、人工保育器など)の操作及び保守点検を行うことを業とする者をいう。」と記載されています。簡単に言えば、病院内の医療機器の操作や点検を行うのが私たちの仕事です。生命維持管理装置以外にも、輸液ポンプ(設定された量の点滴薬を投与する装置)や生体情報モニタ(患者の心電図や血圧等を監視する装置)など、様々な装置を扱うために医学と工学、両方に精通しなければなりません。医療機器は病院内のどこかで使用されています。そんな身近な存在だからこそ、安全・安心に使用できるように操作はもちろん、日常的・定期的に保守・点検を行っているのです。
西勝さんは商業高校に通われていたそうですが、なぜ医療の道に?
西勝 私が商業高校に進学したのは、簿記などの資格を取得し、いずれは母が営む美容室を継ごうと考えていたから。母は10代の頃に慢性的な病気を発症し、それと向き合いながら仕事をしていました。しかし、私が高校3年生に進級してすぐに亡くなりました。医療分野に興味を持ったのは、入院中の母のお見舞いで病院に通っている時に見た、医師や看護師の献身的な姿からです。「自分も人の命を救う仕事がしたい」その想いから、医療系の進学先を調べるうちに “臨床工学技士”の存在を知りました。当時はまだ国家資格として認められたばかりで、宮城県に開校したばかりの専門学校を受験し入学しました。臨床工学技士は、医学はもとより工学系の知識も問われる職業。受験のために理数系の勉強はしましたが、1年生の時は勉強についていけませんでしたね。追試も何回受けたか。そこで、普通科や工業高校出身の友人から高校の教科書を借り、基礎的な問題を何度も繰り返すことに重点を置いたのです。その甲斐あって、何とか授業に追いつけるようになり、国家資格にも無事合格。晴れて医療の道に進むことになりました。
実際に臨床工学技士になってみて、いかがですか?
西勝 今年で27年目を迎えましたが、今でも非常に責任のある仕事と感じています。医療機器は生命維持管理装置のような人命に直結するものから、血圧計のように体の情報を確認するものなど様々です。機械の種類によっては不具合が生じれば、生命維持に関わる恐れがあります。そういった状況を未然に防ぐため、臨床工学技士は医療機器の操作や点検だけでなく、取扱い方法や事故事例などの講習も行っています。医療機器を扱うほかの医療スタッフに安全に使用してもらう。また、使用する医療機器に対する知識を深めてもらうことも、重要な仕事なのです。
生命維持に関わる恐れがある…重い言葉ですね
西勝 臨床工学技士になってから、ある先生に「俺は“自分自身の行動が患者さんの生死に直結する”という認識を持って仕事をしている」と言われたことがあり、私自身もそう思いました。随分前の話になりますが、初めて点検した人工呼吸器が患者さんに使用されたとき、患者さんや装置の状態を確認して病棟に寄ったら、担当看護師から「○○さん元気になってきたよ」と言われてホッとしました。現在、医療現場から離れ、ふくしま医療機器開発支援センターで医療従事者の手術手技トレーニングのサポート、企業が開発した医療機器の安全性試験などに携わっています。これを読んで、臨床工学技士という職業に興味を持っていただければ幸いです。
Q&A
Q.臨床工学技士ってどんな仕事?
A.医師の指示のもと、生命維持管理装置の操作や保守点検を行う仕事です。扱う代表的な機器としては「人工心肺装置」、「人工呼吸器」、「血液浄化(人工透析)装置」などがあり、医療機器の安全確保に大きく貢献しています。
Q.どうすれば臨床工学技士になれるの?
A.臨床工学技士になるためには、国家試験に合格しなければなりません。受験資格を得るためには養成校(大学、専門学校など)に進学し、特定の課程を修了する必要があります。在籍する期間は学校によって異なるので、チェックしておきましょう。
Q.求められる能力は?
A.臨床工学技士には医学・工学の両方の知識が求められます。その知識を軸として、取扱う機器の仕組みや特徴などを把握できるかが大きなポイントになってきます。また、医療スタッフ(医師や看護師など)と連携する業務が多いので、物事を正確に伝えるコミュニケーション能力も必要です。
- 一般社団法人 ふくしま医療機器産業推進機構 所属 (勤務場所:ふくしま医療機器開発支援センター) 西勝 光紀(さいかつ みつのり)さん
- 出身地
- 福島県郡山市
- 最終学歴
- 東北文化学園大学 臨床工学科
- 休日の過ごし方
- ツーリング
※この記事はaruku2017年12月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。