お話いただいたのは18代目蔵元 仁井田穏彦さんと奥様の真樹さん。穏やかで知的なご夫妻です。
伝統的な生酛仕込みで作る「しぜんしゅ」。(1,188~1,890円/720ml)力強さとふくよかな旨みが魅力のお酒です。
次世代に何を残すかを考え、つないだ三百年。
スイーツデーや田んぼの学校などのイベントで名前を知っている方も多いのではないでしょうか。「仁井田本家」は100haもの山と田んぼを守り、『穏(おだやか)』『しぜんしゅ』などの日本酒を造る、308年の歴史を持つ酒蔵です。18代目蔵元穏彦さんに伝統について質問すると、こんな話をしてくれました。「僕の前に17代の蔵元がいて、先代は百年持つ木造漆喰の酒蔵を建て、先々代は水源を確保し、町と良好な関係を築きました。今の利をとるより次世代に何を残すべきかを考えて蔵をつないできた結果、300年続いたんだと思います。」“山を守れ”とは良い水を絶やさないための代々の教え。お酒は体に良いものであるべきだと、無農薬米を作り始めたのは、50年以上前のことです。今も酒造りに使うのは、無農薬の米と、湧水・井戸水だけ。
「夢は自給自足の蔵をつくること。僕は、自然の力だけでお米が採れる元気な田んぼを村中に残し、自給自足の歩みを進めながら次の世代に繋ぎたい。いずれは仕込桶も山の木で作りたいですね。」
米は自然栽培で作られ、仲間達が農作業を支えています。各年の米の良さを活かしたお酒の味の違いも楽しみ。
仕込み水は山の湧水と井戸水。杜氏さん達が手間ひまかけて仕込み、蔵の微生物が発酵を助けます。八百万の神様に見守られてお酒になっていくのです。
水の代わりに前の年のお酒を使って仕込み、100年注ぎ継いで完成させる「百年貴醸酒」。その年を象徴する時を刻むお酒です。蔵で試飲も可能。
母の想いから生まれたノンアルコールの発酵食品たち。パッケージも可愛い!
「スイーツデー」や「蔵・感謝祭」などのイベントには毎回300~400人もの方が来場されます。
一代では成し得ない夢を叶えるために。
震災後にイベントをやり始めたのは、「蔵に来て酒造りや田んぼを直に感じてもらい、安全・安心を確かめてもらいたかったから」だと真樹さんは言います。「イベントでお菓子を作るようになったのは、お酒を飲めない方や子ども達に楽しんでもらうため。また、私は母親なので、娘達に安全で健康に良いものを食べさせたいという思いから、甘酒の水分を絞った甘味料を作り、『こうじチョコ』やキャラメルが出来てきました。」そういう新たな試みが功を奏し、今では、メディアや口コミを介して多くの人々が蔵を知るようになりました。国内だけでなく海外からイベントに参加する方もいるとか。「こんな蔵があることで村が元気になったらいいなと思うし、日本の田んぼを守る酒蔵でありたい。思い描いていること全てを僕の代で成すのは難しいかもしれないけれど、何代もかけて叶えていけたらいいと思っているんです。」
その言葉は、300年続く酒蔵ならではの説得力。伝統を継ぐということは、何世代もの知恵や工夫を積み重ね、大きな夢を叶えていく歩みでもあるんですね。
SHOP INFO
仁井田本家
福島県郡山市田村町金沢字高屋敷139番地
営/月~金 10:00~17:00(祝祭日・夏季休業日・年末年始を除く)※11月~3月は土曜日も営業
※この記事はaruku2019年2月号に掲載したものです。価格や内容は取材時のものです。