企業や個人のアイデアや創作物を守る。知的財産の専門家である弁理士にお話を伺いました。
発明や商標を権利化することにやりがいを感じます
弁理士のお仕事について教えてください。
水野 人間が生み出したアイデアや創作物などの財産は「知的財産」と呼びます。弁理士は知的財産の専門家として、特許や商標、意匠などの代理出願を行う国家資格です。また、訴訟の代理や諸外国への出願の仲介も行っております。弁護士と字面が似ていることから文系資格だと思われることが多いですが、実は80%ほどの資格者が理系出身なのですよ。
商標、特許とはどんなものを指しますか?
水野 商標とは会社や商品・サービスの名称やロゴなどを、特許とは発明品を保護するものです。商標や特許を取得することで、そのアイデアや発明品は「取得した企業や個人が独占して使用できるもの」となり、発明した権利や利益を守ると同時に、企業や個人の発展を支えることができます。逆に言うと、商標登録をしなければそれらは模倣されやすく、その後の技術の発展や利益を損ねてしまう可能性もあるのです。
商標や特許を取得するにはどのような手続きが必要になるのでしょうか?
水野 まずは類似するものがないかなどを調査して書類を作成・出願し、特許庁の審査を受けます。申請は個人でも可能ですが、手続きが煩雑で審査が通らないこともあるため、ほとんどの商標・特許は弁理士による代理出願を経て登録されます。こうした手続きだけを見ると理系出身者が多い仕事とは思えないかもしれません。しかし、弁理士の仕事で多くを占めるのは特許です。特許の申請には、発明品にある技術の独自性を理解し、審査官に分かりやすいように書類を作成できる専門知識が必要なのです。
水野先生はなぜ弁理士になろうと思ったのですか?
水野 子供の頃から発明が大好きで、中学生の頃はアマチュア無線機に夢中でした。大学卒業後は企業で開発の仕事をしたかったのですが就職活動が難航し、視点を変えて好きな発明の分野に携われる弁理士を目指したんです。この職業を知った時、「これは面白そう」と思いましたね。東京の弁理士事務所で学びながら国家試験の勉強に励んでいたのですが、私が受験した当時、弁理士は競争率40倍の難関資格。5年挑戦したのですが叶わず、いったん諦めて実家がある郡山市に戻り、家庭教師などをしていました。ですがやっぱり開発に携わる仕事を諦めきれず、その後も挑戦を続け30歳を過ぎてようやく合格できました。
合格後はどのように仕事を広げていかれたのでしょうか?
水野 合格して4ヵ月後に事務所を開業しましたが、初めは1年半ほど仕事がない状態でした。地元の先輩の紹介や、商工会議所など地域団体に参加して人の繋がりをつくることで、だんだんと紹介、紹介でご依頼をいただけるようになったのです。これまで日本と外国を含めて特許は800件以上、商標は1,500件ほどに携わってきました。「アクアマリンふくしま」や「ビッグパレットふくしま」という名称は、福島県の依頼を受け私が代理出願した商標なんですよ。
依頼するのはどんな方が多いですか?
水野 基本的には県内をはじめとした東北地方の企業ですね。私の事務所ではどんな依頼でも相談を受け付けているため、特許を取ろうと個人の方から発明品を持ち込まれることもあります。話し合いながら、特許が取れる道を探ることは楽しいです。既に存在している仕組みでも、部分的に特許が取れそうな仕組みを発見できることもあります。風邪を引いた時みたいに、発明品ができたら気軽に持ち込めるという意味で、私の事務所は「町医者的」だと思って仕事をしています。東京の特許事務所は多いところで100人以上の弁理士を抱えていますが、規模が大きすぎると私の事務所のようなことはできませんからね。
県内では弁理士の数が少ないと聞きます。
水野 県内で弁理士の先生が常駐している事務所は5つしかありません。試験が難しいこともあるのかもしれませんが、弁理士資格は認知度が低く、地方ではなかなかは増えていかないのが現状です。一方、商標は時代の変化に伴って保護される商標の携帯の範囲が広がっており、最近では音響や色の組み合わせなどでも取得できるようになっていることからも、弁理士は今後ますます求められる職業です。
どんな時に仕事のやりがいを感じますか?
水野 企業の依頼を受けて出願して、権利になることそのものがやりがいになります。まちを歩けば至る所に私が出願した商標がありますが、今まで扱ってきたものが多すぎて、人に言われてやっと思い出すようなものもあります。
子供たちにどんなことを伝えたいですか。
水野 どんな仕事にせよ、自分で考える力を持ってもらいたいと思います。社会で成長していくには、自分で問題意識を持って、それを調整し解決していく力が必要です。また、意見を持つときには必ず逆のことも考えることが大事だと思います。自分の主張だけではなく、「反対の立場ならどうか?」と考える。一つの社会問題を見つめてみて、自分目線だけではなく、他の人の目線だとどう捉えるか考えてみると世界が広がりますよ。
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※この記事はaruku2022年8月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。