地方の気象情報発信のパイオニアになりたいと思っていました
気象学に興味をもったきっかけは何ですか?
斎藤 学生時代は野球部に所属していたのですが、当時は「練習中に水を飲むな」などの過酷な練習が多く、唯一雨が降ると部活が休みになったんです。だから自然と雨が楽しみになってよく天気予報を見るようになり、天気図にも興味を持つようになりました。ただ、小さいことからずっとマスコミのような情報発信の仕事をしたいという気持ちが強く、就職活動時は新聞社などを受けていたんです。その中で民間の気象情報発信会社であるウェザーニューズへ入社したのは、創業者である石橋元会長の「日本の気象情報発信を受け手側の立場に立った情報発信の仕方に変えよう」という考え方に共感できたからなんです。
入社後はどのような仕事をしたのですか?
斎藤 入社後、私は気象予報士試験という国家資格の試験に4年かけ、8回目でやっと合格したんです。だから20代半ばは試験勉強以外の思い出がほぼないんですよ。試験は学科試験と実技試験があって、学科では地球物理などの問題が出題されます。偏西風の流れや大気の様々な数式、それから気象業務法という法律。大気全般から防災まで広範囲の知識を問われます。実技ではその場で天気図を読み解き、論述するんです。だから、大量の天気図を読み、計算式を読み解くことを反復して勉強しました。この経験が今の自分の働くベースに繋がっているので、時間を費やしたことを後悔はしていません。
資格取得後はどのようなお仕事をしたのですか?
斎藤 予報センターに配属され、担当するエリアの予報をしていました。その中で、自分のスキルを地方で磨き上げたいという気持ちが強くなったんです。地方は農業、漁業などの一次産業が盛んな分、気象情報のニーズがあるのに供給体制が整っていないと感じたので。だから、自分が地方の気象情報発信のパイオニアになりたいと思いました。石橋会長にも「頑張って来い」と背中を押され、仙台の東北放送で働くことを決めたんです。そこで東北放送が東北初の民間の気象業務認可事業者(※1)となり、独自予報を発信するようになりました。その後、福島に活動の拠点を移して今に至ります。
※1…気象予報士業務を行うための基準を満たし、気象庁長官からの許可を受けた事業者
福島の天気は予報しやすいですか?
斎藤 福島は気象予報士泣かせと言えるほど難易度が高いんです。その理由は、山の多さ。阿武隈山地、奥羽山脈、南には那須の山々、新潟との境にも山があるため地形が複雑で機械でも正確な予測が難しいんです。だからこそ、気象予報士の経験則や補正が必要になるんですね。予報が難しいからか、福島には天気のことわざが多く残っているんです。例えば「半田山に黒い雲がかかると雨が降る」「かもめが陸に上がると海が荒れる」といったものです。そんな先人たちが残していったものもたくさんあるんですよね。だから、そういうものも過去の経験則として盛り込みながら、データや雲の流れも合わせて発信するのが私の役割だと思っています。実は、全産業の8割は天気に関するといわれ、多くの方の関心事項だからこそ、伝え方や新しい情報の発信にもこだわりを持っているんです。実際、天気以外の社会の内容も盛り込んで伝えるとすごく共感されますね。
普段はどのように予報を立てているのですか?
斎藤 天気図、数値予報を全てチェックして独自予報を立てます。他に最近はtwitterを通じて視聴者から届けられる情報もチェックしていますよ。テレビの天気予報で重要なのは「観測」ではなく「感測」。だから、私の天気予報は「みんなで作る天気予報」なんです。数字がひとり踊りするのではなく、みんなが見た空の色や感じている空気がこの後どう変化するかを届けることで共感してもらえたらと思っています。そして、テレビの発信力とSNSの即時性をうまく合わせて常に情報発信する体制づくりをしています。それが台風や地震、噴火などの災害に役立つと思いますから。普段は天気という共通言語でコミュニケーションをとり、災害時は命を守る情報の発信にシフトできるようにしているんです。
災害時にはどのように対応しているのですか?
斎藤 災害時はL字(※2)という緊急性の情報が流れる画面に切り替わり、そこに張り付いて観察します。天気は眠りませんから会社に出ずっぱりです。お盆は熱波、シルバーウィークは台風、年末年始は寒波など、休みで移動が活発になる頃に限って天気が荒れたりするので、そんなときこそきちんと情報を届けなければならないという使命感はありますね。災害のときに一番の情報量・即時性を出していくことで信頼を得られると思っていますから。テレビは特に訴求力があるので、自分の一言で被害を未然に防げることもあり、やりがいを感じるんです。気象予報士は、自分の知見を生かして社会貢献ができる仕事だと思いますよ。
※2…画面にL型のゾーンが現れ、そこに災害情報などをテロップで表示するテレビの手法です。
気象予報士を目指す子どもたちへメッセージをお願いします。
斎藤 空を眺め、雲の流れなどを観察してみてください。秋は特にいろいろな種類の雲が出る季節。9月はうろこ雲や巻雲など、いろいろな雲が見られますよ。あと、10月、11月になると福島は最も虹の多く出る季節になるんです。特に郡山、湖南のあたりなどは多く虹が出ます。郡山は虹の町ですので。そういった空の変化を楽しみながら過ごすのも福島に住む楽しみなのかなと思いますね。そして、データ以外に感覚も大事で、特に気象予報士をプレゼンターとしてやるなら受け手の求める内容を想像する力が必要です。あとは、何事も苦労があってこそ一人前になれる。ぜひたくさん苦労し、努力して1つのもの極めてくださいね。
- 福島テレビ報道部 報道局 斎藤 恭紀(さいとう やすのり)さん
- 出身地
- 千葉県千葉市
- 出身校
- 日本大学文理学部
- 座右の銘
- No Rain,No Rainbow(雨のない虹はない)
※この記事はaruku2015年9月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。