演奏者としてヴァイオリンが上手いのは当たり前。“自分らしさ”を表現することが大切なんです。
斎藤さんとヴァイオリンとの出会いを教えてください。
斎藤 僕がヴァイオリンを始めたのは5歳の頃。ある音楽教室が福島市にできて、そのことをお袋がどこからか聞きつけてきたんです。そしたら突然「ラーメンを食べにいこう」と誘われてついて行くと、到着したのはまさかの音楽教室。丼ではなく、ヴァイオリンを持たされたことは今でも覚えています(笑)。それから小・中・高校とヴァイオリンを続け、高校3年生の頃は多い日には1日8時間くらい練習をしました。
いつ頃からプロを目指し始めたのですか?
斎藤 強く意識し始めたのは大学生のときです。それまでは自分がプロの世界に立てるとも思っていなかったし、当時のヴァイオリン弾きは“給料日には借用書が渡される”と言われるほど不安定な職業だったので、もともとは音楽の先生を目指していました。だけど大学に進学し、様々な人と出会い、そして仲間と一緒にアンサンブルを組んで演奏をしていくうちに“どうせ音楽をやるなら、色々なことに挑戦したい”という気持ちが芽生え始めたんです。そこでプロ化して間もなかった、現在の仙台フィルハーモニー管弦楽団のオーディションを受けてみると結果は合格。オーケストラの一員としてプロの道を歩むことになりました。当時の仕事内容は東北圏内の学校で演奏するスクールコンサートが多く、年間で300公演くらいしていましたね。
現在はフリーランスとして活動されていると聞きました。
斎藤 オーケストラを退団した後はコンサートの企画や音楽ラジオ番組のMCなど、これまでとは違ったことをしていたのですが、ヴァイオリンへの思いが次第に強くなり、改めて演奏家として活動する決意をしました。そして現在はフリーのヴァイオリニストとしてパーティーや結婚式、イベントなどで演奏をしています。僕が何より大切にしているのは「楽しんで聴いてもらう」こと。クラシックって堅いイメージがあると思いますが、聴いている方が気楽に楽しめるよう、曲にまつわる面白エピソードを披露したり、クラシックの曲目が続く中、あえて皆さんが知っているポピュラーな曲を入れてみたりと、お客さんとの距離を縮めるために選曲やトークには細心の注意を払っています。
それなら普段クラシックに馴染みのない方でも楽しめそうですね。
斎藤 だけどこれらの工夫は最高の演奏ができてこそ意味があるのです。ただフリーランスとして活動する以上、依頼によっては初対面の方とアンサンブルを組み、リハーサルは本番前の1度だけなんてことも珍しいことではありません。相手の奏でる音色を1度聞いただけで、弾き方の特徴だったり、感じ方を瞬時に見抜く洞察力が必要になります。ヴァイオリンはピアノやギターなど、他の楽器と合奏することで初めて輝くもの。相手の個性を理解し、魅力的な部分を膨らませてあげることで、初めて人の心に残る音楽を作り上げることができるのです。実際に互いの良さが引き出された時は、曲調によってお客さんの顔が変わるんですよ。重い曲だったら憂鬱な表情になったり、逆に明るい曲だったら笑顔になったり。その様子を見た際は、「狙い通り!」と思ってやりがいを感じますね。それに人の心を動かす演奏をするためには、実はもう1つ大切なことがあるんです。
もう1つの大切なこととは?
斎藤 音楽以外のことに興味を持つことです。プロを目指す方の中にはテクニックの部分だけが先行して、練習漬けの毎日を送っている方が多くいると思います。しかし音楽は人間が作ったものです。演奏する曲がどんな思いで作られ、なぜ生まれたのかを理解し、そこに“自分なりの解釈”を織り込むことで、演奏に奥深さが生まれるのです。練習はもちろん大事。だけど、プロとして活躍するのであれば、作曲者の気持ちを表現できる人間性と、幅広い教養を身につけることが大切です。
Q&A
Q.どうすればヴァイオリニストになれるの?
A.一般的には幼い頃から音楽のレッスンを受け、音楽学校や大学・短大の芸術学部、または音楽系の専門学校に入学するケースが多いそうです。大学卒業後はどこかのオーケストラ、または音楽事務所に所属するなど、いくつか道は分かれますが、ヴァイオリニストを目指すのであればまずは芸術系の学校への進学を目指しましょう。
Q.求められる能力は?
A.「音楽の世界」は実力が物をいう厳しい世界なだけに、ヴァイオリンに対する相当の技術が必要です。プロを目指す方の中には1日に10時間以上練習する方もいるそうです。さらに、斎藤さんのお話にもあった通り、ヴァイオリンは他の楽器とアンサンブルを組む機会が多い楽器です。合奏の練習も積極的に行いましょう。
- 斎藤 恭太(さいとう きょうた)さん
- 出身地
- 福島県福島市
- 最終学歴
- 山形大学教育学部特設音楽科
- 休日の過ごし方
- 美術館巡り、サーキット走行
※この記事はaruku2017年10月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。